司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

Y.A. ヤングアダルトの林

『続 窓ぎわのトットちゃん』人は失敗することで前に進んで行く

著者はこの本の前書きに どう考えても『窓ぎわのトットちゃん』よりおもしろいことは書けない,と思っていた。 と,記している。けれど,この本で描かれたトットちゃんのその後の人生も,なかなかユニークだった。笑いと涙,そして失敗(とまでいかなくても…

『2020年6月30日にまたここで会おう』若者に必要なのは希望

「伝説の東大講義」という副題がついている。 この本は副題の通り,著者・瀧本哲史さんが2012年6月30日に母校である東京大学で,29歳までの300人を対象に行った講義をまとめた一冊。残念ながら著者は約束の2020年の再会を待たず,2019年に亡くなっている。 …

『記憶喪失になったぼくが見た世界』子どものこころで,世界を見たら・・・

大学1年のある日,バイクの事故で記憶喪失になった「ぼく」のその後を描くノンフィクション。 「ぼく」は子どもというより,産まれたての赤ちゃんが見ているような視点で世界を見ている。 知っている言葉だけで,目の前の知らないものを見つめたり,感じたり…

『13歳からのアート思考』絵をみるということを通して

高校時代から美術館に通っていた。文字の世界もいいのだけれど,絵の世界は一層静寂に満ちていてるところが好きだった。語り掛けるのではなく,絵はただそこにある感じがして(もちろん饒舌な絵というのもあるけど),読書も含めて言葉の世界に疲れたときは…

『科学と科学者のはなし』科学者の目で見る世界の姿

この本は明治・大正・昭和にかけて物理学者として活躍した,寺田寅彦のエッセイ集。たまたま手にとって,しおりのページを開くと「藤の実」というタイトルで「昭和7年12月13日の夕方帰宅して・・・」とある。つまり,90年前の今日のことを書いたエッセイだっ…

『探偵は教室にいない』冬になると会いたくなる二人

中学生のころの自分にいい思い出はないはずなのに,この小説を読むと中学時代が妙に懐かしく郷愁に駆られる。恋に恋する時期の,近づきたいのに同じくらいに近づきたくないという矛盾を抱えた集団の一員だったころを思い出す。 この本は著者にとってのデビュ…

『Very Good Lives』とても良い人生のために,知っておきたいこと

世界的ベストセラー「ハリーポッターシリーズ」の著者,J.K.ローリングさんのスピーチを,松岡享子さんの訳で一冊にまとめたもの。 このスピーチは,2008年にハーバード大学の卒業生に贈ったもので,卒業後の活躍が期待される若者に向けて語られたことばは…

『両手にトカレフ』本が救った,少女の物語

主人公ミアはイギリスに暮らす14歳の少女。母親はアルコール依存症で,たぶん精神疾病で,今は家にこもっていて仕事にも行けず,生活保護で暮らしている。父親については何も知らない。「もし子どもに親が選べるなら,私は彼女なんか選ばない。」と思ってい…

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』若いころの話で笑えるのは幸福の印

山中伸弥さん1962年生まれ。2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。 羽生善治さん1970年生まれ。2008年に第66期名人戦で十九世名人の永世称号資格を得る。 是枝祐和さん1962年生まれ。2004年『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて史上最年少の最優秀男優賞…

『手紙屋』人生を変える一冊になり得る物語

この作者の本を読むのは初めてではありませんでした。 ですから,きっといい話だろうという予感はありました。 私はよく「一冊の本は人生を変える」という表現を使います。それは実際にそんな体験をしたことがあるからです。一冊の本でなくとも,たった一行…

『吉本ばななが友だちの悩みについてこたえる』ど真ん中ではないからこそ,救われる言葉

悩みを打ち明けたとき,当たり前の直球で返されると,「それは分かってるよ。」と思ってしまいませんか? もちろん,分かっていてもなお直球が欲しいときもあるけれど,本当に悩んでいるときは意外な一言や,ばかばかしいくらいの返事のほうがスッキリするこ…

『鳥類学者だからって,鳥が好きだと思うなよ。』お腹を抱えて笑えることの健康さ

タイトルからして,もう笑える匂いが充満している感じ。 早速開いてみると,「はじめに,或いはトモダチヒャクニンデキルカナ」と前書きらしきものが・・・。この前書きだけでクスクスではなく,ゲラゲラまで一気に持っていかれます。 新聞の書評欄で見つけ…

『窓際のトットちゃん』が開けてくれた窓

小学校5年生くらいの事だったと思う。その日風邪をひいて休んでいた私は,親の本棚から『窓際のトットちゃん』を取り出した。いわさきちひろさんの絵による絵本を読んだことがあり,表紙の絵を見て「これならよめるかも・・・。」と思ったことを覚えている…

『滅びの前のシャングリラ』地球最後の日を 誰とどこで過ごしますか?

この作者はきっと世界の隅々までよく見える目を持っているんだろうなと思う。 小さな子どもが何でもない場面を細部まで覚えていることがあるように。 読んでいる間,映画を見ているようだった。 あなたが思った通りにはきっと終わらない物語だと約束できる1…

『お探し物は図書室まで』私もこんな司書に いつかなりたい。

司書という仕事の魅力はなんといっても,その人にとって今必要な本を手渡すことが出来た瞬間です。 悩んでいた人がスッキリとした顔で本を返しに来たなら,心の中でガッツポーズ。 「面白かったです。」「良かったです。」と,話しかけられたらこの先もきっ…

『逆ソクラテス』逆転の発想が いじめを止める

伊坂幸太郎さん自身があとがきの中で 「この本を書くために作家になったといってもいい。」 と書かれている。それほどまでにこの本は今までの作品とは一線を画す場所にある作品だと思った。 いじめについて,ある種の答えを出している本はいくつかあるけれど…

『つめたいよる』に,天国のあの人に会えたら

ある日,本棚からふと手に取って1話目を一気読み。 いっぺんに本の中に入っていく感覚が味わえる作品。作者の名前の通り,この人にしか出せない香りがあって,懐かしい日向のにおいや,けだるい午後の雨のにおいのような,だれでも知っているなつかしいもの…