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司書が本当にお勧めする本

『黒牢城』歴史的ミステリー小説

何年か前の大河ドラマ軍師官兵衛」が大好きな夫にもおすすめした小説をついに読了。

舞台は荒木村重が籠城する有岡城織田信長に反旗を翻し立てこもった村重のもとに翻心するよう説得に行った官兵衛は捕らえられて地下の土牢に繋がれる。ここまでは歴史的事実。

この事実を背景にフィクションのミステリーが仕立てられている。有岡城で次々に起こる怪事件を城主である村重は何とか解決しようとするが,リーダーはいつの時代にも孤独で,周囲にいるものには心をすべて許すことはできない。そこで村重は,城中の誰とも関わりのない土牢の官兵衛になぞ解きを頼む。官兵衛は彼なりの陰謀もあり,ある時はヒントを与え,ある時は処し方を教えながらも,自分の策略のうちに村重を誘い込む。

時代背景や登場人物の設定は史実に基づきながら,フィクションの部分は作者らしく工夫されている。

この作品を読むと,武士というものの心のあり様や美学をかっこいいと思う心が,日本人である自分の中に残っているなと感じる部分がたくさんあった。リーダーとしての村重の苦悩は,組織においての上司の苦悩と似ているし,村重の妻に対する言葉や態度は,現代の女性にとっても魅力的な部分もあると感じた。あんなふうに「弱いもの」として守られ徹底的に愛されてみたいという願望も抱きつつ,運命共同体として強い絆で繋がれ時には男性以上に覚悟をもって生きる妻「千代保」の姿にも胸打たれた。もちろんフィクションのミステリー部分でも存分に楽しめる,今までにない歴史的ミステリーになっていると思う。