司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『だれかののぞむもの~こそあどの森の物語』自分の人生を生きよう

岡田淳さんのこそあどの森シリーズの中の一冊。

「この森でもなければ その森でもない あの森でもなければ どの森でもない」

どこにあるのかわからないこそあどの森で起こる出来事が描かれるファンタジーシリーズ作品。

『ふしぎな木の実料理法』をまず読んで,古いなつかしいどこかの国のおとぎばなしを読んだときのような気持になった。一つ一つの設定が魅力的で,こそあどの森の住人たちの住んでいる家の挿絵もとても緻密でかわいらしく,これぞファンタジーという感じ。一巻は遠くの友人から届いた見たこともない木の実を料理するという物語で,いっぺんにこそあどの森をのぞいた気持ちにさせてくれる。

そして,『だれかののぞむもの』。この物語は児童書でありながら大人がゆっくりと読むべき物語に思える。人の心を読み,その人が望む姿になってしまう「フー」という生き物が登場する。いつも人の望むものになり,みんなを喜ばせる「フー」には自分の喜びがないし,本当の姿が分からない。この本は「人の気持ちばかりを考えて,自分を失うほど忙しくしてない?」「自分の望む幸せはなに?」と読むものに問いかけてくる。物語を追いながら,自分について深く考えることができる,何歳でも読める児童書だ。

こういう児童書を読むと,子どもの中には素直な思慮深い大人が入っているのだと感じる。(矛盾しているけど)だからこそ大人も楽しめるような児童書が世界にはたくさんあるのだと思う。そしてこの本も,大人ぶるのではなく,大人が自分の中にあることを隠している本当の子どもたちのための物語でもあるのだと思う。