司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『うまれてきた子ども』うまれてきた喜びを両手いっぱいに

この本の主人公は「うまれなかった子ども」。それが地球にやってきて,はだかんぼうであるいている。ライオンに出会っても怖くない,蚊に刺されてもかゆくもない。「うまれてないから,かんけいない。」

感情も欲もない「うまれなかった子ども」は犬にかまれた女の子が泣き叫んで,その声でやってきた女の子のおかあさんがやさしくばんそうこうを貼ってやるところを見ていて,急に自分も「うまれたい」気持ちになり,うまれてくる。

なんだか抽象的で哲学的なお話で,子どもたちにはむずかしいかな?と思うけれど,子どはたいてい小さいほうが意外に感覚的に理解してしまう。「「うまれなかった子ども」なんてどう解釈すればいいだろう・・・?」と考えてしまうのは大人だけで,「うまれてないからかんけいない」ことを「そうだよね」というように聞いている。

そして最後にうまれてきた子どもが感じた「うまれているの くたびれるんだ」をうなずきながらきいている。

この絵本の男の子のように,生まれてくることを自分で選んだ子どもはいなくて,いつの間にか生まれてくるわけだけど,それでもうまれてきた子どもたちが「遊び疲れる」喜びを,守られる喜びをせめて感じられるように願いたいと思う。

 

私は20年前,初めて出産したとき,「子どもは自分の力でうまれてくる」ことが分かって涙した。私にはそのとき我が子が自分の足でお腹をけって出てきたことが,実感として分かった。だから,この絵本の通り,子どもはこの世界に自分で出てきて,「やってみたい」ことを自分でやり始めるのだと思っている。

この絵本は,「いままで育ててきたんだから」という親の呪縛から解放された瞬間を思い出させてくれる,世界に一冊の絵本だ。