司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『たんぽぽの日々』いつか見送るための,子育ての日々

我が子を胸に抱いて,愛おしいと思わない母親はいない。

それでも,いつも胸の奥でつぶやいていたのが,この本の表題作。

「たんぽぽの

 綿毛を吹いて

 見せてやる

 いつかおまえも

 飛んでゆくから」

私自身はうまく飛び立つことができないたんぽぽだった。遠くへ飛んでいくことを両親が望まなかったから。むろん,それでも風は何度か吹いたのだから,飛ばなかったのは私だ。だからこそ,息子たちには春の風を受けて何の心配もせず,飛んでほしいと願って,散歩のたびに綿毛を吹いて見せてやった。「みんな遠くへ飛んで行って,自分の花を咲かせるんだよ。」と言いながら。

それは母親としてせつないことだ。けれど,同時に私にとってはこの歌こそが子育ての全てなのだ。いつか飛んでゆくと思うから,心をこめて育てたのだから。

ほかにも子育てで困ったときや悩んだとき,何度も救ってくれた歌が収められている。作者自身も,子育てをしながら作った歌ばかりなので,ひとつひとつに実感がこもっていて共感できる。ほんのわずかな時間にぱっと開いて読めるので,忙しい子育て期にぴったりの歌集だと思う。