司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『両手にトカレフ』本が救った,少女の物語

主人公ミアはイギリスに暮らす14歳の少女。母親はアルコール依存症で,たぶん精神疾病で,今は家にこもっていて仕事にも行けず,生活保護で暮らしている。父親については何も知らない。「もし子どもに親が選べるなら,私は彼女なんか選ばない。」と思っているけれど,弟のチャーリーを守るため,出ていかずなんとか我慢して暮らしている。

ある日ミアは図書館で一冊の本を借りる。それは実在の日本人女性「カネコ フミコ」の自伝小説だった。フミコも不遇の人で,父親に捨てられ,次々に変わる母親の男にひどい目にあわされ,ついには母親にも捨てられ,親せきをたらいまわしにされ,そこでも徹底的に辛酸をなめる。

現代のイギリスに暮らすミアと,100年前の日本で生きたフミコの毎日が交互に語られながら,物語は進んで行く。

二人に共通するのは,明日生きられるかどうかというお金と食べ物の不安,誰にも頼ることはできないというぎりぎりの精神状態と,孤独。しかも,そんな自分を誰かに知られたくはないという最後のプライド。

だから,ミアは彼女のリリックにある通り、「両手にトカレフ」で生きていくしかない。

さて,この本が私にとっても,どこかでミアのように孤独に懸命に生きている誰かにとっても特別なのは,「本は誰かを救うことができる」と証明して見せたことだ。

私だって,本があったからこそ,こうして今の私でいられるのだ。

久しぶりに本当にそう思わせてくれる本だった。

そして,図書館は誰でも知りたいことを知ることができる自由な場所として,ずっと存在し続けるのだと思う。