中学生のころの自分にいい思い出はないはずなのに,この小説を読むと中学時代が妙に懐かしく郷愁に駆られる。恋に恋する時期の,近づきたいのに同じくらいに近づきたくないという矛盾を抱えた集団の一員だったころを思い出す。
この本は著者にとってのデビュー作で,第28回「鮎川哲也賞受賞作」でもある。先に書いたように舞台は中学校で,「わたし」海砂真史(うみすなまふみ)は,差出人の分からないラブレターをもらい,幼馴染の鳥飼歩(とりかいあゆむ)に相談する。歩は皮肉屋で大人びていて,中学校には数回しか行っていないが知的で洞察力もある。つまり彼が探偵で,学校で起こった不思議な出来事の謎を,ほぼ真史との会話だけで解き明かしていく,「探偵は教室にはいない」物語なのだ。
もちろん殺人事件は起こらないし,中学校で起こる日常の中のちょっとした謎がいくつか出てくるだけなのだが,同時に真史と歩がお互いを意識していくことが,そっと本当にそっと描かれていて,それが私の郷愁を誘うのだと思う。
この物語は続きがでていて,続編の『探偵は友人ではない』では,二人の距離がさらに近づく。
物語の舞台は北海道で,だからなのか,寒くなるとどうしても二人に会いたい気がしてくる。一応探偵ものなので,ネタが分かっていながら何度も読みたくなるというのは,不思議なことだ。考えてみると,どうも私はミステリーというよりも,この二人に会いたくて本を開いているような気がしている。「こんな大人びた中学生いない。」と思うのだけど,その何十倍も「ああ,かわいいな。この未熟さがいいな。」と思わせる二人に会うために。今年も寒くなってきたので,そろそろ読んでみてもいいかなと思っている。
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