司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『査察機長』クリスマスのニューヨークへ,飛行機で

ずっと昔にある人に勧められた本。その人が、自分の前からいなくなってしまったので、なんとなく読まずにきた本だった。

 

棚の整理をしていてふと目に留まり、借りて帰って開いてみるとクリスマスの物語で,なんだか運命を感じて読み始めた。

 

成田からニューヨークまでの国際線で、機長として査察を受ける若いパイロットと、副操縦士(コーパイ)として同じ飛行機に乗るベテランパイロット、そして二人を査察する査察機長(チェックパイロット)の3人のパイロットの人間模様を描いた作品。クリスマス前の12月23日の朝ニューヨークに到着する予定の飛行機は、たくさんの乗客を乗せオーロラスポットを通り吹雪が予想されるニューヨークに向かう。あまり飛行機に乗ることのない私だけど、乗っている気分にさせるのは(それもコックピットに!)作者が元パイロットで、この小説が経験によって書かれているから。

どんな仕事でもそうだけれど、そこにいる人しか知らない秘密がたくさんある。この本を読んでみて思ったのは当たり前だけれど、「飛行機は人間が作った」のだから、「人間にしか飛ばせない」のだということだった。オートパイロット機能も人間が使ってこそ、その機能が活かされる。勘などというと「論理的でない」と批判されるかもしれないが、経験と知識に裏打ちされた「勘」という言葉が私は人間臭くて好きだし,信じてもいる。AIは人間を凌ぐ記憶力と処理速度を持っているのかもしれないが,私がAIと結婚することはないのと同じに,ばかげていても勘が外れても命を懸けるなら人間にかけたい。

すすめてくれた人を思い出しながら、空を見ると飛行機雲が何本も走っていて、あの一つ一つに今まさに「人間」が乗って、鉄の塊を動かしているのだと思うと、読む前よりは安心して飛行機に乗れるような気がした。

飛行機の世界に興味があれば,ぜひクリスマス前に読むといい作品でした。