司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『アンナの赤いオーバー』オーバーは人の手で作られる

12月が来ると読みたくなる絵本のうちの一冊です。

戦争の終わったポーランドで,新しいオーバーを買おうとする母と娘の物語。食べ物も日用品もない中で,子ども用の新しいオーバーを売っている店も見つからず,なにより買うためのお金もない。でも「戦争が終わった証として」お母さんはどうしてもアンナに新しいオーバーを買ってやりたいと考える。そこでまず,お百姓さんのところへいって羊の毛をゆずってもらうことに・・・。お金はないので,大事にしていた時計と交換する約束をして,毛が伸びる春まで何度も羊に会いに行く。ようやくもらった羊毛を,ランプと引き換えに毛糸に紡いでもらい,自分たちでコケモモを使って赤く染めて・・・と,たくさんの人の手を借りて,アンナの赤いオーバーはやっと一年後の冬に完成する。

そしてクリスマスにアンナとお母さんはオーバーを作ってくれたみんなを呼んでのパーティーをひらくことにする。

最初のページでアンナは青いすり切れた丈の短いオーバーを着て,建物の残骸だらけの町を歩いている。けれど最後のページでは,クリスマスツリーを大勢でかこみ,立派な赤いオーバーを着てにぎやかに過ごす親子の姿が描かれている。

戦争はたくさんのものを奪うけれど,本当の意味での笑顔や喜び,助け合い支え合う人間らしさまで奪うことはけっしてできない。

読み終わったら,赤いオーバーを着たアンナの誇らしげな顔の表紙をもう一度眺めてほしい。そのときにはきっと「戦争の恐ろしさ」より,そこから立ち上がる「人の強さ」を感じることが出来ると思うから。