結局,女ほど孤独な生き物もいないのではないかと思う。命を宿した時のために,一人でも痛みや不安に耐えていけるよう,孤独を味わうために作られているのだろうか。
この物語の主人公カイアの孤独は舞台である湿地のごとく果のないぬかるみの様な孤独だ。アルコールに溺れ家族に手を上げる父親に耐えられず,まずは母親がそして兄弟たちも次々に家を出ていく。一人残されたカイアは父親と何とかうまくやっていこうとするが,貧困と差別が父親を追い込み出奔。カイアは10歳で天涯孤独となる。彼女は学校へ行くこともなく,誰かに育てられることもなく,社会から孤立し,ゼロから自分を作っていく。彼女の成長を描くのがこの物語の1つ目のストーリー。
そしてもう一つは同じ町で20年後におこる殺人事件をめぐるストーリー。町の裕福な家庭に育ったチェイスという青年が湿地で死んでいるのが見つかる。そして,捜査の結果カイアは殺人犯として捕らえられ,裁判にかけられることになる。
カイアの成長物語と20年後の殺人事件とが交互に描かれ,最後にはすべての伏線が回収され二つの物語が見事に重なりあう。
ひどい差別や偏見の中で,カイアを育んだのは,湿地の美しい自然と生き物たち。まるで巣から落ちた卵から,美しい白鳥が育ったような少女カイア。人の強さや美しさが本来自然から受け取ったものだと思い出させてくれる。そして,女とはこれほどまでに強いのだと,思い知らせてくれる。
植物,水音,光,砂浜,野鳥,本を読む喜び,初恋,etc.......。ひみつの宝がたくさん詰まった箱を,森の奥でこっそり開けてのぞいているような,何とも言えない贅沢な時間を味わえる一冊だった。
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