司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『東京タワー オカンとボクと,時々,オトン』人は,いつ大人になるのか?

歴代の本屋大賞作品を展示していて,「学生時代に泣きながら読んだな・・・」とめくり始めたが最後,借りて帰って一気読みすることになった。

当時はオカンがとにかくかわいそうで,病気が重くなっていくところがせつなくて泣けてきたのだけれど,自分がオカンになって(そして息子をもって)読んでみると,「ボク」の不器用さと優しさに泣けて泣けて・・・,ぼろぼろになってしまった。

なかでも,何度も読んだP200

 

 東京には,街を歩いていると何度も踏みつけてしまうくらいに,自由が落ちている。

 落ち葉のように,空き缶みたいに,どこにでも転がっている。

 故郷を煩わしく思い,親の監視の目を逃れて,その自由という素晴らしいはずのものを求めてやってくるけれど,あまりにも簡単に見つかる自由のひとつひとつに拍子抜けして,それを弄ぶようになる。

 自らを戒めることのできない者の持つ,程度の低い自由は,思考と感情を麻痺させて,その者を身体ごと道路脇のドブに導く。

若者が故郷を捨て,街に憧れて出ていく。私の町でも毎年のように,子どもたちが都会へと出ていく。どれくらいの子どもたちが,ドブに導かれているだろうかと考えてみた。次から次へと,町を出た子の顔が浮かんだ。この文章の続きにあるように,自由とは不自由の中にある時にこそ価値がある。大いなる自由は,自制心のないものにとってはただのゴミ溜めなのだ。もちろん,作者はそこから這い上がっているわけで,だからこそ,あの佇まいなのだと納得した。

人はいつ,大人になるのか。

「オカンを大切に思えたとき」も,一つの答えになる気がする。