司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『探偵は教室にいない』冬になると会いたくなる二人

中学生のころの自分にいい思い出はないはずなのに,この小説を読むと中学時代が妙に懐かしく郷愁に駆られる。恋に恋する時期の,近づきたいのに同じくらいに近づきたくないという矛盾を抱えた集団の一員だったころを思い出す。 この本は著者にとってのデビュ…

『Very Good Lives』とても良い人生のために,知っておきたいこと

世界的ベストセラー「ハリーポッターシリーズ」の著者,J.K.ローリングさんのスピーチを,松岡享子さんの訳で一冊にまとめたもの。 このスピーチは,2008年にハーバード大学の卒業生に贈ったもので,卒業後の活躍が期待される若者に向けて語られたことばは…

『マスカレード・ゲーム』美容院と極上ミステリーの関係

東野圭吾さんの作品は,面白いに違いないのでいつも美容院で読んでいます。パーマをかけたり,カラーリングをしたりするとそれなりに時間がかかるので,この間に一冊読むとちょうどぴったり。電話が鳴ることもないし,家事をしながらよりずっと集中して読む…

『両手にトカレフ』本が救った,少女の物語

主人公ミアはイギリスに暮らす14歳の少女。母親はアルコール依存症で,たぶん精神疾病で,今は家にこもっていて仕事にも行けず,生活保護で暮らしている。父親については何も知らない。「もし子どもに親が選べるなら,私は彼女なんか選ばない。」と思ってい…

『いっさいはん』子育ては大変な時こそ,黄金期!

一歳半の子どもと過ごしたことがある人なら,だれでもこの本を読んで「あった,あった,こういうとき!」と思うでしょう。 口いっぱいに頬張っているときにかぎってくしゃみしたり,ズボンのポッケにごみのような宝物をいっぱいにしてみたり(我が家では冷凍…

『はれ ときどき ぶた』ときどき はちゃめちゃな物語を

子どもたちには,できれば毎日笑ってほしい。でも,現実の世界では厳しいことも,しんどいことももちろん超えていかなければいけません。だからときどき,はちゃめちゃな物語を読んであげたい。 主人公は3年生の畠山則安くん。友だちからは「10円やす」と呼…

『たんぽぽの日々』いつか見送るための,子育ての日々

我が子を胸に抱いて,愛おしいと思わない母親はいない。 それでも,いつも胸の奥でつぶやいていたのが,この本の表題作。 「たんぽぽの 綿毛を吹いて 見せてやる いつかおまえも 飛んでゆくから」 私自身はうまく飛び立つことができないたんぽぽだった。遠く…

『同志少女よ,敵を撃て』少女の敵は,何だったか

主人公の少女セラフィマは1942年独ソ戦の影が忍び寄るモスクワに近い農村に住んでいる。そんなある日、母と共に狩猟に行った帰り,村を襲うドイツ兵を目撃する。とっさに狩猟用のライフルで狙撃しようとした母親は,セラフィマの目の前で撃たれて死に,自分…

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』若いころの話で笑えるのは幸福の印

山中伸弥さん1962年生まれ。2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。 羽生善治さん1970年生まれ。2008年に第66期名人戦で十九世名人の永世称号資格を得る。 是枝祐和さん1962年生まれ。2004年『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて史上最年少の最優秀男優賞…

『ざっそう』雑に扱われても,魅力的な草花たち

春になるとまずタンポポが咲き始め,オオイヌノフグリ(小さいころは語源を知らず得意になっていた)が小さな花をつけ,ナズナがいつの間にか花を開く。 夏には庭中がざっそうだらけになる。何度も草をとることになり,とった端からまた伸びてきてやっかいも…

『わたしの美しい庭』良心の呵責ではない同情は存在するのか?

物語の主人公は10歳の少女百音(もね)。事故で両親を亡くし,母親の元結婚相手だった統理(とうり)と二人で暮らしている。近所の人たちは二人が「なさぬ仲」だから複雑な家庭と思っている。二人は統理が所有するマンションの一室に住んでいて,朝になると…

『1つぶのおこめ』数のふしぎさと偉大さを教える,むかしばなし

むかしむかしのインドのはなし。ある年,お米が取れず飢饉が訪れる。自分勝手な王さまは,米蔵にいっぱいのこめを1つぶも分けようとしない。そこで,かしこいむすめラ―二が知恵をしぼる。ラ―二がこぼれていた王さまのお米を集めて届けると,お礼になんでも…

『あくたれラルフ』愛すべきあくたれのすがた

どんなに悪いやつだと分かっていても,いや悪いやつだからこそ,愛してしまうことがある。本当に困ってしまうけど,そういうことはある。 だからこの絵本はこんなふうにはじまる。 「あくたれねこの ラルフは,セイラの ねこでした。 あくたれでも セイラは…