司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

2022-01-01から1年間の記事一覧

『栞と嘘の季節』図書室をめぐるミステリー再び

『本と鍵の季節』を読んでから数年。高校で図書委員に所属する堀川次郎と松倉詩門(しもん)のコンビには,ぜひまた会いたいと思っていたので,迷うことなく手にとりました。 この二人は本当に絶妙のコンビ。二人の頭の回転が速すぎて良くできたテンポの速い…

『汝,星のごとく』親は選べなくても,その先の人生は選べるということ

夫を愛人に奪われた母親を守るために一緒に暮らす少女・暁美(あきみ)と,好きな人にどこまでもついていく身勝手な母親に振り回される少年・櫂(かい)。 二人は17歳で出会い,お互いの苦しい家庭環境を唯一打ち明け合い,深い深い恋に落ちていく。 こんな…

『数学する身体』曖昧な人間が,正確な解を求め数学をするということ

読む前と読んだ後とで,世界が全く変わってしまうような本がある。 大抵は読んだ後でそう気づく。「ああ,やってしまったな」と思っても,その時にはもう世界はすっかり変わっているのだから,どうしようもない。 数学と文学とは全く違うことのように扱われ…

『アンナの赤いオーバー』オーバーは人の手で作られる

12月が来ると読みたくなる絵本のうちの一冊です。 戦争の終わったポーランドで,新しいオーバーを買おうとする母と娘の物語。食べ物も日用品もない中で,子ども用の新しいオーバーを売っている店も見つからず,なにより買うためのお金もない。でも「戦争が終…

『科学と科学者のはなし』科学者の目で見る世界の姿

この本は明治・大正・昭和にかけて物理学者として活躍した,寺田寅彦のエッセイ集。たまたま手にとって,しおりのページを開くと「藤の実」というタイトルで「昭和7年12月13日の夕方帰宅して・・・」とある。つまり,90年前の今日のことを書いたエッセイだっ…

『サンタクロースっているんでしょうか?』という質問に対する,正しい答え

「サンタクロースって,本当にいるのかな?」 私は一体いつ頃,こんなふうに思っただろうか? この本の質問者は8歳の女の子。アメリカに住んでいる,利発な少女だ。1897年のある日,彼女は「サンタクロースなんていない」と友だちに言われ,父親に事の真相…

『クリスマスの小屋』『クリスマスの猫』奇蹟が起こる季節に

世界には,もう何千年分ものクリスマスの奇蹟を描いた物語がある。 とくに子どもたちには,そんな本を手渡したいと思う。奇蹟を信じられない子どもが絶望することほど悲しいことはないし,大人にはとくに知っておいてほしいのだけど,幼い子どもの絶望は大人…

『査察機長』クリスマスのニューヨークへ,飛行機で

ずっと昔にある人に勧められた本。その人が、自分の前からいなくなってしまったので、なんとなく読まずにきた本だった。 棚の整理をしていてふと目に留まり、借りて帰って開いてみるとクリスマスの物語で,なんだか運命を感じて読み始めた。 成田からニューヨ…

『探偵は教室にいない』冬になると会いたくなる二人

中学生のころの自分にいい思い出はないはずなのに,この小説を読むと中学時代が妙に懐かしく郷愁に駆られる。恋に恋する時期の,近づきたいのに同じくらいに近づきたくないという矛盾を抱えた集団の一員だったころを思い出す。 この本は著者にとってのデビュ…

『Very Good Lives』とても良い人生のために,知っておきたいこと

世界的ベストセラー「ハリーポッターシリーズ」の著者,J.K.ローリングさんのスピーチを,松岡享子さんの訳で一冊にまとめたもの。 このスピーチは,2008年にハーバード大学の卒業生に贈ったもので,卒業後の活躍が期待される若者に向けて語られたことばは…

『マスカレード・ゲーム』美容院と極上ミステリーの関係

東野圭吾さんの作品は,面白いに違いないのでいつも美容院で読んでいます。パーマをかけたり,カラーリングをしたりするとそれなりに時間がかかるので,この間に一冊読むとちょうどぴったり。電話が鳴ることもないし,家事をしながらよりずっと集中して読む…

『両手にトカレフ』本が救った,少女の物語

主人公ミアはイギリスに暮らす14歳の少女。母親はアルコール依存症で,たぶん精神疾病で,今は家にこもっていて仕事にも行けず,生活保護で暮らしている。父親については何も知らない。「もし子どもに親が選べるなら,私は彼女なんか選ばない。」と思ってい…

『いっさいはん』子育ては大変な時こそ,黄金期!

一歳半の子どもと過ごしたことがある人なら,だれでもこの本を読んで「あった,あった,こういうとき!」と思うでしょう。 口いっぱいに頬張っているときにかぎってくしゃみしたり,ズボンのポッケにごみのような宝物をいっぱいにしてみたり(我が家では冷凍…

『はれ ときどき ぶた』ときどき はちゃめちゃな物語を

子どもたちには,できれば毎日笑ってほしい。でも,現実の世界では厳しいことも,しんどいことももちろん超えていかなければいけません。だからときどき,はちゃめちゃな物語を読んであげたい。 主人公は3年生の畠山則安くん。友だちからは「10円やす」と呼…

『たんぽぽの日々』いつか見送るための,子育ての日々

我が子を胸に抱いて,愛おしいと思わない母親はいない。 それでも,いつも胸の奥でつぶやいていたのが,この本の表題作。 「たんぽぽの 綿毛を吹いて 見せてやる いつかおまえも 飛んでゆくから」 私自身はうまく飛び立つことができないたんぽぽだった。遠く…

『同志少女よ,敵を撃て』少女の敵は,何だったか

主人公の少女セラフィマは1942年独ソ戦の影が忍び寄るモスクワに近い農村に住んでいる。そんなある日、母と共に狩猟に行った帰り,村を襲うドイツ兵を目撃する。とっさに狩猟用のライフルで狙撃しようとした母親は,セラフィマの目の前で撃たれて死に,自分…

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』若いころの話で笑えるのは幸福の印

山中伸弥さん1962年生まれ。2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。 羽生善治さん1970年生まれ。2008年に第66期名人戦で十九世名人の永世称号資格を得る。 是枝祐和さん1962年生まれ。2004年『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて史上最年少の最優秀男優賞…

『ざっそう』雑に扱われても,魅力的な草花たち

春になるとまずタンポポが咲き始め,オオイヌノフグリ(小さいころは語源を知らず得意になっていた)が小さな花をつけ,ナズナがいつの間にか花を開く。 夏には庭中がざっそうだらけになる。何度も草をとることになり,とった端からまた伸びてきてやっかいも…

『わたしの美しい庭』良心の呵責ではない同情は存在するのか?

物語の主人公は10歳の少女百音(もね)。事故で両親を亡くし,母親の元結婚相手だった統理(とうり)と二人で暮らしている。近所の人たちは二人が「なさぬ仲」だから複雑な家庭と思っている。二人は統理が所有するマンションの一室に住んでいて,朝になると…

『1つぶのおこめ』数のふしぎさと偉大さを教える,むかしばなし

むかしむかしのインドのはなし。ある年,お米が取れず飢饉が訪れる。自分勝手な王さまは,米蔵にいっぱいのこめを1つぶも分けようとしない。そこで,かしこいむすめラ―二が知恵をしぼる。ラ―二がこぼれていた王さまのお米を集めて届けると,お礼になんでも…

『あくたれラルフ』愛すべきあくたれのすがた

どんなに悪いやつだと分かっていても,いや悪いやつだからこそ,愛してしまうことがある。本当に困ってしまうけど,そういうことはある。 だからこの絵本はこんなふうにはじまる。 「あくたれねこの ラルフは,セイラの ねこでした。 あくたれでも セイラは…

『すべての見えない光』見えない世界に住む少女にだけ見えるもの

視力を持たないが冷静で思慮深い少女マリー=ロールと,孤児院で育った優しく繊細な少年ヴェルナー=ペニヒを,出会いへと導くのはラジオ。ヒトラーが世界を巻き添えに始めたあの冷酷で悲惨な戦争の時代を背景に,ふたりのあまりにも脆弱におもえる少年と少…

『うまれてきた子ども』うまれてきた喜びを両手いっぱいに

この本の主人公は「うまれなかった子ども」。それが地球にやってきて,はだかんぼうであるいている。ライオンに出会っても怖くない,蚊に刺されてもかゆくもない。「うまれてないから,かんけいない。」 感情も欲もない「うまれなかった子ども」は犬にかまれ…

『エリザベスは本の虫』本の虫という生き方を貫いた女性の物語

本の虫という言葉が英語にもあると知ったのは大学生の頃でした。 book worm と呼ばれる本の虫が世界中に存在すると知った時の安堵感は計り知れないものだった。勉強するはずだった時間に本を開いてしまい,つい最後まで寝る間を惜しんで読んだことが何度あっ…

『だれかののぞむもの~こそあどの森の物語』自分の人生を生きよう

岡田淳さんのこそあどの森シリーズの中の一冊。 「この森でもなければ その森でもない あの森でもなければ どの森でもない」 どこにあるのかわからないこそあどの森で起こる出来事が描かれるファンタジーシリーズ作品。 『ふしぎな木の実料理法』をまず読ん…

『黒牢城』歴史的ミステリー小説

何年か前の大河ドラマ「軍師官兵衛」が大好きな夫にもおすすめした小説をついに読了。 舞台は荒木村重が籠城する有岡城。織田信長に反旗を翻し立てこもった村重のもとに翻心するよう説得に行った官兵衛は捕らえられて地下の土牢に繋がれる。ここまでは歴史的…

『星を掬う』運命を変えるためになすべきこと

この作者らしい作品でした。 今回も運命と戦う女性たちの物語だった。 最高の夏の思い出が,最後の時間になり,離れ離れになった母子はラジオ番組をきっかけに再び巡り合い,一緒に暮らすことになる。そこにはすでに二人の同居人がいて,4人ともそれぞれ背負…

『正欲』正しさとマジョリティは必ずしもイコールではない

タイトルからして,一筋縄ではない感じがして,なかなか開かずにいました。 テーマは「性的少数者」つまりマイノリティなのだと思います。ですが,切り口は今までに見たこともないものでした。 初めて出会う考えがたいていそうであるように,驚きとともに圧…

『赤と青とエスキース』絵画の閉じ込めているもの

この小説の中に登場するのは「エスキース」(下絵の意)というタイトルの一枚の人物画です。その人物は赤いブラウスを着て,青い鳥のブローチをつけた若い女性。つまり赤と青と「エスキース」です。 この本は,その絵をめぐる30年間の物語です。 さて,本の…

『ゆうかんなアイリーン』女の子の強さは,いつはぐくまれるのか?

冬になると読みたくなる古い絵本。雪の日はとくに。 お屋敷の奥さまのためにドレスをしたてたお母さんが,出来上がったとたんに風邪で寝込んでしまいドレスを届けることができなくなる。そこでアイリーンがお母さんの代わりに吹雪の中,お屋敷までドレスを届…