司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『クリスマスの小屋』『クリスマスの猫』奇蹟が起こる季節に

世界には,もう何千年分ものクリスマスの奇蹟を描いた物語がある。

とくに子どもたちには,そんな本を手渡したいと思う。奇蹟を信じられない子どもが絶望することほど悲しいことはないし,大人にはとくに知っておいてほしいのだけど,幼い子どもの絶望は大人よりずっと深く暗いのだから。

そしてだからこそ,奇蹟は起こるのだと思わせてくれる本を読んでほしい。

なるべく早くに,なるべくたくさん。

クリスマスの物語はどれも奇蹟を信じさせてくれるものばかりだ。『

クリスマスの小屋』

アイルランド地方に伝わるおはなし。流れ者の鋳掛屋(なべなどにあいた穴をふさぐ仕事)が,子だくさんの夫婦の小屋の前に捨てた娘オーナの一生の物語。オーナは育ててくれた夫婦を最後まで世話して看取っても何ももらえず,結婚も出来ず,住み込みで家事手伝いをしながら暮らす。ある飢饉の年,食料が足りなくなってもうだれもオーナを雇ってくれなくなる。それでも,オーナはずっと信じていた。「いつか自分の小屋を持って幸せに暮らすのだ」と。年老いたからだで,12月の冷たい土の上に座っていても若いときと少しも変わらない情熱で,そう信じていた。そして,信じたオーナに奇蹟は訪れる。

『クリスマスの猫』

1934年のイギリスでの物語。お金持ちの娘キャロラインは,サイモンおじさんが司祭をつとめる教会でクリスマス休暇を過ごすことになる。おじさんは独り身で家政婦のミセス・ブリンドリ―と一緒に暮らしている。彼女は意地悪でずるくて,めんどくさがり。だから町の人たちは彼女を雇っているサイモンおじさんのことまで嫌っている。キャロラインは活発で,素直で,お転婆な女の子で,近所の貧しい家の子どもボビーと友だちになり,偶然見つけた身重の猫を守るため,二人は知恵を出し合い協力することを約束する。やがて,猫は小屋で子どもを産み,おじさんや近所の子どもたちまで巻き込んで奇蹟を起こすことになる。

 

2冊とも読み終わったとき,「よかった」と感じるクリスマスらしい美しい物語。賢い子どもなら,「奇蹟は信じた人間に訪れるのだ」ときっと気づくだろうし,「自分にも,誰にでも奇蹟は起こせるのだ」と気づくかもしれない。奇蹟は魔法や手品ではなく,もちろん統計上の稀な出来事を言うのでもなく,何千年も前から「思いやりや優しさ,無償の愛」などの別名として語られてきたのだと,私は思っている。