司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『リカバリー・カバヒコ』ありふれているから,共感できる物語

今年も本屋大賞の季節がやってきて,読みかけてやめていた本を手にとった。

作者は2021年『お探し物は図書室まで』2022年『赤と青とエスキース』で本屋大賞2位,昨年は『月の立つ林で』で5位と,もはやノミネート常連の方。今回も心打つ連作短編だった。

この作者の本は,いい意味で本当にどこにでもある話を小説に仕立てていると感じる。どこにでもあるから「つまらない」にならず,どこにでもあるから「共感できる」の方にぎりぎり寄せている感じが上手いなと思う。

その感覚は『お探し物は図書室まで』の時よりも,本作の方が強い気がした。

郊外のマンションの近所にある公園の,古びたカバのアニマルライド。自分が悩みを抱えている場所を触ると,治してくれるという噂のあるこのカバは,誰が名付けたか「リカバリー・カバヒコ」と呼ばれている。うわさを聞きつけてやってきた人々の悩みは一つ一つリカバリーされ,最後にカバヒコの秘密につながる物語で締めくくられる。ファンタジックな流れに行きそうなところだが,うまく現実の範囲で解決されるところが良かった。

現実を突きつけるような物語に疲れたとき,コーヒーでものみながら優しい気持ちで読める一冊です。