司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

その他の原っぱ

『続 窓ぎわのトットちゃん』人は失敗することで前に進んで行く

著者はこの本の前書きに どう考えても『窓ぎわのトットちゃん』よりおもしろいことは書けない,と思っていた。 と,記している。けれど,この本で描かれたトットちゃんのその後の人生も,なかなかユニークだった。笑いと涙,そして失敗(とまでいかなくても…

『遅いインターネット』五感を使ってゆっくりと思考すること

田舎に住んでいると「移住・定住促進」という言葉をよく耳にする。私自身は論理的に考えて,私の住む町だけが人口を増加させることはできないという意見を持ち続けている。けれどそんな考えはなぜか少数だ。先日,仕事で東京から来られた方がこの話を耳にし…

『自由への手紙』自由になるために捨てるべきものと,捨ててはいけないもの

著者オードリー・タン氏は,新しい時代を生きる台湾の若き指導者。35歳でデジタル担当大臣となり,コロナ禍で数々の思い切った政策を打ち出したカリスマ。 この本では常識という非常識な思い込みから自由になる方法について語っている。性別からも自由になっ…

『リンドグレーンと少女サラ』手紙がつなぐ友情

半世紀生きて思うのは,女の友情って年が離れていたほうが育まれやすいのではないかということ。年が近いと,ライバルになってしまう可能性の方が高いけれど,年が離れていればお互いの声に素直に耳を傾けられる気がする。(もちろん例外はあるけれど) この…

『2020年6月30日にまたここで会おう』若者に必要なのは希望

「伝説の東大講義」という副題がついている。 この本は副題の通り,著者・瀧本哲史さんが2012年6月30日に母校である東京大学で,29歳までの300人を対象に行った講義をまとめた一冊。残念ながら著者は約束の2020年の再会を待たず,2019年に亡くなっている。 …

『日のあたる白い壁』絵と出会う幸福を,ことばに変えて

美術館に行くことは,私にとって読書と同じように,生きていくために必要な行為だ。 そして,疲れているときは,図書館より美術館が安らぐ。 この本にあるゴーギャンの言葉を借りるなら,絵画のなかでは一言の説明もいらず「すべては一瞬のうちに尽くされる…

『記憶喪失になったぼくが見た世界』子どものこころで,世界を見たら・・・

大学1年のある日,バイクの事故で記憶喪失になった「ぼく」のその後を描くノンフィクション。 「ぼく」は子どもというより,産まれたての赤ちゃんが見ているような視点で世界を見ている。 知っている言葉だけで,目の前の知らないものを見つめたり,感じたり…

『13歳からのアート思考』絵をみるということを通して

高校時代から美術館に通っていた。文字の世界もいいのだけれど,絵の世界は一層静寂に満ちていてるところが好きだった。語り掛けるのではなく,絵はただそこにある感じがして(もちろん饒舌な絵というのもあるけど),読書も含めて言葉の世界に疲れたときは…

『数学する身体』曖昧な人間が,正確な解を求め数学をするということ

読む前と読んだ後とで,世界が全く変わってしまうような本がある。 大抵は読んだ後でそう気づく。「ああ,やってしまったな」と思っても,その時にはもう世界はすっかり変わっているのだから,どうしようもない。 数学と文学とは全く違うことのように扱われ…

『科学と科学者のはなし』科学者の目で見る世界の姿

この本は明治・大正・昭和にかけて物理学者として活躍した,寺田寅彦のエッセイ集。たまたま手にとって,しおりのページを開くと「藤の実」というタイトルで「昭和7年12月13日の夕方帰宅して・・・」とある。つまり,90年前の今日のことを書いたエッセイだっ…

『Very Good Lives』とても良い人生のために,知っておきたいこと

世界的ベストセラー「ハリーポッターシリーズ」の著者,J.K.ローリングさんのスピーチを,松岡享子さんの訳で一冊にまとめたもの。 このスピーチは,2008年にハーバード大学の卒業生に贈ったもので,卒業後の活躍が期待される若者に向けて語られたことばは…

『たんぽぽの日々』いつか見送るための,子育ての日々

我が子を胸に抱いて,愛おしいと思わない母親はいない。 それでも,いつも胸の奥でつぶやいていたのが,この本の表題作。 「たんぽぽの 綿毛を吹いて 見せてやる いつかおまえも 飛んでゆくから」 私自身はうまく飛び立つことができないたんぽぽだった。遠く…

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』若いころの話で笑えるのは幸福の印

山中伸弥さん1962年生まれ。2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。 羽生善治さん1970年生まれ。2008年に第66期名人戦で十九世名人の永世称号資格を得る。 是枝祐和さん1962年生まれ。2004年『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて史上最年少の最優秀男優賞…

『吉本ばななが友だちの悩みについてこたえる』ど真ん中ではないからこそ,救われる言葉

悩みを打ち明けたとき,当たり前の直球で返されると,「それは分かってるよ。」と思ってしまいませんか? もちろん,分かっていてもなお直球が欲しいときもあるけれど,本当に悩んでいるときは意外な一言や,ばかばかしいくらいの返事のほうがスッキリするこ…

『鳥類学者だからって,鳥が好きだと思うなよ。』お腹を抱えて笑えることの健康さ

タイトルからして,もう笑える匂いが充満している感じ。 早速開いてみると,「はじめに,或いはトモダチヒャクニンデキルカナ」と前書きらしきものが・・・。この前書きだけでクスクスではなく,ゲラゲラまで一気に持っていかれます。 新聞の書評欄で見つけ…