司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』若いころの話で笑えるのは幸福の印

山中伸弥さん1962年生まれ。2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。

羽生善治さん1970年生まれ。2008年に第66期名人戦で十九世名人の永世称号資格を得る。

是枝祐和さん1962年生まれ。2004年『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。

山極寿一さん1952年生まれ。京都大学総長。ゴリラの野外研究による霊長類研究の第一人者。

永田和宏さん1947年生まれ。71年京都大学理学部物理学科を卒業し,数々の研究所で研究。京都大学名誉教授であり歌人

 

永田和宏さんが聞き役となり,他の四人それぞれとの対談をまとめた対談集。

これだけそうそうたるメンバーなのに,自慢に聞こえる部分が全くない。むしろ題名の通り若いころの失敗話を面白おかしく語っている。帯の写真が全員笑顔なのも納得。

 

山中伸弥さんは,本当に人として魅力的。ちょっとおちゃめな感じがあって,ノーベル賞受賞者なのに親近感がわくほど。

羽生善治さんは,挑戦の人。「勝負の世界にこそグレイゾーンが必要」(自分のために,言い訳できる部分を残すことが大切)というのは,目からうろこだった。

是枝裕和さんの話の中で,「映画は生き物」という古い言葉を思い出した。監督でさえ思ってもみない方向に進むことがよくあると。そして神のいない世界で,善悪ではない現実を描くことで伝えたいという言葉に胸打たれる。

山極寿一さんの本は(もちろんゴリラの)何冊か読んだが,対談を読むと本当に遊び心のある人だとあらためて感じた。そして,人はチンパンジーやゴリラと同じ霊長類なのだと思い知る。

どの人も孤独で自立したユニークな男性で,一気に読むとくらくらするほど。そして,若いころの失敗を笑う余裕がある素敵な男性でいるためには,そこに至るまでの道を自分の足で切り開いて進むしかないのだと感じる。とにかく読んでいる間中,幸福な時間でした。