司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『汝,星のごとく』親は選べなくても,その先の人生は選べるということ

夫を愛人に奪われた母親を守るために一緒に暮らす少女・暁美(あきみ)と,好きな人にどこまでもついていく身勝手な母親に振り回される少年・櫂(かい)。

二人は17歳で出会い,お互いの苦しい家庭環境を唯一打ち明け合い,深い深い恋に落ちていく。

こんな恋は必然だから,誰にも止めることなんてできない。なのに二人の子どもたちは,世間の荒波にいやというほどもまれ,母親という本来は愛情を注いでくれる側の人間がおこす面倒をすべて背負い,それでも自分の夢を叶えるためにもがき続け苦しみ,やがて少しずつ離れていく。

こんなふうに,飛びたいのに足や手に荷物がいっぱいぶら下がっているような子どもたちを見ると,せつなくてたまらなくなる。もし,今現実にそんな状況にいるなら,

本を開いてほしい。近くの開いている図書館に飛び込んで,一秒でも早く。

私は「親ガチャ」とか「毒親」とかいう言葉があまり好きではない。たしかに,そういう言葉に当てはまる状況はあると思うけれど,そんな言葉を使うだけでは何も変わらないし,誰も救われない。そしてある年齢を過ぎて自分で自分の生き方を選べる時が来たら,親のせいにはできないのも事実だ。もし,親なんだから見捨てられないと思うなら,「親孝行は赤ちゃんの時十分にしたよ」と言ってあげたい。「だから,大丈夫。もう手を放してもいいよ。」と。

親は選ぶことはできないけれど,いつだって自分の人生を選ぶことは自由で,そこに罪悪感なんて抱く必要はない。(過去の自分にこそ言いたいけど。)親は自分の選んだ人生を生きてそこにいるのだから,あなたも選ぶしかないし,その代わりあなたは自由の代償として責任も自分で背負うのだからずるくはない。

日本はずっと長子が家を継ぐというシステムや、親孝行という言葉があって,いまでも縛られているところがあるのだと思う。けれどこの本のように,呪縛を解いてくれる本がたくさんあるから,私は悩んでいる若い人たちが本を開いてくれることを,本当に切に願っている。