フィクションの世界では往々にしてハッピーエンド,もしくはきれいな終わりが予想でき,だからこそ「事実は小説より奇なり」なのだろう。
この本はそういった意味では現実に近いかもしれない。
6つのバラバラに思える短編が,かすかなつながりを持っている。1話,2話と読んでいくうち,いい意味で裏切られる結末が用意されていることに気づき、「なんか普通じゃないな・・・」と思っていた近所の住人の家をのぞいたような感覚に襲われた。近くて遠い名前も知らない誰かが抱えている大きな秘密を知ってしまったような。
どれもが悲しいけれど,人間らしく,どこか滑稽で,ありそうでない話。(あるいはなさそうであるかもしれない話。)
1話「ネオンテトラ」で冷たく冷静な女性の気持ちを味わい,2話「魔王の帰還」でけっこう笑って,3話「ピクニック」でミステリーにゾッとして,4話「花うた」で心を震わせ,5話「愛を適量」でなんだかせつなくなって,6話「式日」で最初に張られた伏線に気づく。
連作短編集というより,かなりしっかりした長編を6つ読んだような気持にすらなる一冊だった。
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