司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『夜が明ける』人が人を救うことは,できるのか?

社会の網目からこぼれ落ちてずっと深く落ちていく人々の物語。

主人公「俺」とフィンランドに実在した俳優・アキ マケライネンにそっくりな「アキ」との高校生から33歳までの友情を描いている。二人とも神様に見放されたようについてない生い立ちを抱えた少年。恵まれているとは言えないけれどそれでも楽しかった「高校時代」から,坂道を転がり落ちるような転落人生。お金とも地位や財産とも無縁のその日暮らしで,小さなきっかけであっという間に食べることすら,眠ることすらままならない環境に生きている。

でもこの物語は誰の物語にもなり得る。誰だっていつどんなきっかけで落ちてしまうかわからない。なぜなら社会の網目は穴だらけで,落ちてしまった人を掬いあげる方法は知らない人ばかりだから。

 

ネグレクト,精神疾病,ブラック企業,過重労働,虐待,貧困,ごみ屋敷,いじめ,パワハラモラハラ,勤労学生,奨学金の未返済,etc・・・社会は問題だらけで,これらの問題の一つも見たことも聞いたこともない人なんて多分いない。でも,じゃあそれを見たときに「自分はどうしたのか」といえば,「どうすればいいか分からなかった」人はたくさんいるんだろうと思う。「ひとごと」で聞き流した人はもっといるだろう。

この本は「答え」をくれない。ただ閉じた後に残ったのは「光」だったし,「人を救うのは人だ」と言われた気がした。

私にとっては今まで「自分には何もできない」と見ないようにしているものと向き合うべき時が来ていること,「しっかり現実を見て,そして声を上げるときが来ている。」ことを告げる,「お告げ本」でした。

だって,今はもう2022年なんだから!(読むと分かります)