司書の本棚

司書が本当にお勧めする本

『探偵は教室にいない』冬になると会いたくなる二人

中学生のころの自分にいい思い出はないはずなのに,この小説を読むと中学時代が妙に懐かしく郷愁に駆られる。恋に恋する時期の,近づきたいのに同じくらいに近づきたくないという矛盾を抱えた集団の一員だったころを思い出す。 この本は著者にとってのデビュ…

『Very Good Lives』とても良い人生のために,知っておきたいこと

世界的ベストセラー「ハリーポッターシリーズ」の著者,J.K.ローリングさんのスピーチを,松岡享子さんの訳で一冊にまとめたもの。 このスピーチは,2008年にハーバード大学の卒業生に贈ったもので,卒業後の活躍が期待される若者に向けて語られたことばは…

『マスカレード・ゲーム』美容院と極上ミステリーの関係

東野圭吾さんの作品は,面白いに違いないのでいつも美容院で読んでいます。パーマをかけたり,カラーリングをしたりするとそれなりに時間がかかるので,この間に一冊読むとちょうどぴったり。電話が鳴ることもないし,家事をしながらよりずっと集中して読む…

『両手にトカレフ』本が救った,少女の物語

主人公ミアはイギリスに暮らす14歳の少女。母親はアルコール依存症で,たぶん精神疾病で,今は家にこもっていて仕事にも行けず,生活保護で暮らしている。父親については何も知らない。「もし子どもに親が選べるなら,私は彼女なんか選ばない。」と思ってい…

『いっさいはん』子育ては大変な時こそ,黄金期!

一歳半の子どもと過ごしたことがある人なら,だれでもこの本を読んで「あった,あった,こういうとき!」と思うでしょう。 口いっぱいに頬張っているときにかぎってくしゃみしたり,ズボンのポッケにごみのような宝物をいっぱいにしてみたり(我が家では冷凍…

『はれ ときどき ぶた』ときどき はちゃめちゃな物語を

子どもたちには,できれば毎日笑ってほしい。でも,現実の世界では厳しいことも,しんどいことももちろん超えていかなければいけません。だからときどき,はちゃめちゃな物語を読んであげたい。 主人公は3年生の畠山則安くん。友だちからは「10円やす」と呼…

『たんぽぽの日々』いつか見送るための,子育ての日々

我が子を胸に抱いて,愛おしいと思わない母親はいない。 それでも,いつも胸の奥でつぶやいていたのが,この本の表題作。 「たんぽぽの 綿毛を吹いて 見せてやる いつかおまえも 飛んでゆくから」 私自身はうまく飛び立つことができないたんぽぽだった。遠く…

『同志少女よ,敵を撃て』少女の敵は,何だったか

主人公の少女セラフィマは1942年独ソ戦の影が忍び寄るモスクワに近い農村に住んでいる。そんなある日、母と共に狩猟に行った帰り,村を襲うドイツ兵を目撃する。とっさに狩猟用のライフルで狙撃しようとした母親は,セラフィマの目の前で撃たれて死に,自分…

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』若いころの話で笑えるのは幸福の印

山中伸弥さん1962年生まれ。2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。 羽生善治さん1970年生まれ。2008年に第66期名人戦で十九世名人の永世称号資格を得る。 是枝祐和さん1962年生まれ。2004年『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて史上最年少の最優秀男優賞…

『ざっそう』雑に扱われても,魅力的な草花たち

春になるとまずタンポポが咲き始め,オオイヌノフグリ(小さいころは語源を知らず得意になっていた)が小さな花をつけ,ナズナがいつの間にか花を開く。 夏には庭中がざっそうだらけになる。何度も草をとることになり,とった端からまた伸びてきてやっかいも…

『わたしの美しい庭』良心の呵責ではない同情は存在するのか?

物語の主人公は10歳の少女百音(もね)。事故で両親を亡くし,母親の元結婚相手だった統理(とうり)と二人で暮らしている。近所の人たちは二人が「なさぬ仲」だから複雑な家庭と思っている。二人は統理が所有するマンションの一室に住んでいて,朝になると…

『1つぶのおこめ』数のふしぎさと偉大さを教える,むかしばなし

むかしむかしのインドのはなし。ある年,お米が取れず飢饉が訪れる。自分勝手な王さまは,米蔵にいっぱいのこめを1つぶも分けようとしない。そこで,かしこいむすめラ―二が知恵をしぼる。ラ―二がこぼれていた王さまのお米を集めて届けると,お礼になんでも…

『あくたれラルフ』愛すべきあくたれのすがた

どんなに悪いやつだと分かっていても,いや悪いやつだからこそ,愛してしまうことがある。本当に困ってしまうけど,そういうことはある。 だからこの絵本はこんなふうにはじまる。 「あくたれねこの ラルフは,セイラの ねこでした。 あくたれでも セイラは…

『すべての見えない光』見えない世界に住む少女にだけ見えるもの

視力を持たないが冷静で思慮深い少女マリー=ロールと,孤児院で育った優しく繊細な少年ヴェルナー=ペニヒを,出会いへと導くのはラジオ。ヒトラーが世界を巻き添えに始めたあの冷酷で悲惨な戦争の時代を背景に,ふたりのあまりにも脆弱におもえる少年と少…

『うまれてきた子ども』うまれてきた喜びを両手いっぱいに

この本の主人公は「うまれなかった子ども」。それが地球にやってきて,はだかんぼうであるいている。ライオンに出会っても怖くない,蚊に刺されてもかゆくもない。「うまれてないから,かんけいない。」 感情も欲もない「うまれなかった子ども」は犬にかまれ…

『エリザベスは本の虫』本の虫という生き方を貫いた女性の物語

本の虫という言葉が英語にもあると知ったのは大学生の頃でした。 book worm と呼ばれる本の虫が世界中に存在すると知った時の安堵感は計り知れないものだった。勉強するはずだった時間に本を開いてしまい,つい最後まで寝る間を惜しんで読んだことが何度あっ…

『だれかののぞむもの~こそあどの森の物語』自分の人生を生きよう

岡田淳さんのこそあどの森シリーズの中の一冊。 「この森でもなければ その森でもない あの森でもなければ どの森でもない」 どこにあるのかわからないこそあどの森で起こる出来事が描かれるファンタジーシリーズ作品。 『ふしぎな木の実料理法』をまず読ん…

『黒牢城』歴史的ミステリー小説

何年か前の大河ドラマ「軍師官兵衛」が大好きな夫にもおすすめした小説をついに読了。 舞台は荒木村重が籠城する有岡城。織田信長に反旗を翻し立てこもった村重のもとに翻心するよう説得に行った官兵衛は捕らえられて地下の土牢に繋がれる。ここまでは歴史的…

『星を掬う』運命を変えるためになすべきこと

この作者らしい作品でした。 今回も運命と戦う女性たちの物語だった。 最高の夏の思い出が,最後の時間になり,離れ離れになった母子はラジオ番組をきっかけに再び巡り合い,一緒に暮らすことになる。そこにはすでに二人の同居人がいて,4人ともそれぞれ背負…

『正欲』正しさとマジョリティは必ずしもイコールではない

タイトルからして,一筋縄ではない感じがして,なかなか開かずにいました。 テーマは「性的少数者」つまりマイノリティなのだと思います。ですが,切り口は今までに見たこともないものでした。 初めて出会う考えがたいていそうであるように,驚きとともに圧…

『赤と青とエスキース』絵画の閉じ込めているもの

この小説の中に登場するのは「エスキース」(下絵の意)というタイトルの一枚の人物画です。その人物は赤いブラウスを着て,青い鳥のブローチをつけた若い女性。つまり赤と青と「エスキース」です。 この本は,その絵をめぐる30年間の物語です。 さて,本の…

『ゆうかんなアイリーン』女の子の強さは,いつはぐくまれるのか?

冬になると読みたくなる古い絵本。雪の日はとくに。 お屋敷の奥さまのためにドレスをしたてたお母さんが,出来上がったとたんに風邪で寝込んでしまいドレスを届けることができなくなる。そこでアイリーンがお母さんの代わりに吹雪の中,お屋敷までドレスを届…

『スモールワールズ』事実はいつも小説より奇

フィクションの世界では往々にしてハッピーエンド,もしくはきれいな終わりが予想でき,だからこそ「事実は小説より奇なり」なのだろう。 この本はそういった意味では現実に近いかもしれない。 6つのバラバラに思える短編が,かすかなつながりを持っている…

『夜が明ける』人が人を救うことは,できるのか?

社会の網目からこぼれ落ちてずっと深く落ちていく人々の物語。 主人公「俺」とフィンランドに実在した俳優・アキ マケライネンにそっくりな「アキ」との高校生から33歳までの友情を描いている。二人とも神様に見放されたようについてない生い立ちを抱えた少…

『透明な螺旋』理系脳へのあこがれ

今更ですが,作者 東野圭吾さんも,主人公 湯川教授も理系男子で,そんな理系ならではの論理的思考に憧れます。 実際にこんな風に理詰めで詰め寄られたら・・・と,考えるとゾッとするのですが,新刊が出ると「まあ,読んでおこうか。」と思ってしまう魅力的…

『手紙屋』人生を変える一冊になり得る物語

この作者の本を読むのは初めてではありませんでした。 ですから,きっといい話だろうという予感はありました。 私はよく「一冊の本は人生を変える」という表現を使います。それは実際にそんな体験をしたことがあるからです。一冊の本でなくとも,たった一行…

『ばばばあちゃんのおもちつき』理想のおばあちゃん像を追いかけて

「ばばばあちゃん」に出合ったのは子育てを始めてからだった。 最初は確か『すいかのたね』だったようなきがする。 ばばばあちゃんはとにかくユニークなおばあちゃん。子どもの心を忘れないし,どんなときも楽しい!やってみたい!と思うことを大切にしてい…

『吉本ばななが友だちの悩みについてこたえる』ど真ん中ではないからこそ,救われる言葉

悩みを打ち明けたとき,当たり前の直球で返されると,「それは分かってるよ。」と思ってしまいませんか? もちろん,分かっていてもなお直球が欲しいときもあるけれど,本当に悩んでいるときは意外な一言や,ばかばかしいくらいの返事のほうがスッキリするこ…

『鳥類学者だからって,鳥が好きだと思うなよ。』お腹を抱えて笑えることの健康さ

タイトルからして,もう笑える匂いが充満している感じ。 早速開いてみると,「はじめに,或いはトモダチヒャクニンデキルカナ」と前書きらしきものが・・・。この前書きだけでクスクスではなく,ゲラゲラまで一気に持っていかれます。 新聞の書評欄で見つけ…

『窓際のトットちゃん』が開けてくれた窓

小学校5年生くらいの事だったと思う。その日風邪をひいて休んでいた私は,親の本棚から『窓際のトットちゃん』を取り出した。いわさきちひろさんの絵による絵本を読んだことがあり,表紙の絵を見て「これならよめるかも・・・。」と思ったことを覚えている…